捕り物
間違えるはずがない。恰好が多少変わったからとはいえ自分があの人を間違えるはずがないのだから。
内密に護衛している騎士達に視線をやってヴァリアスを任せると、リアナは路地裏へ入っていったその人物の後を追いかける。
後ろで制止の声が聞こえるが無視をした。
表通りを抜けて辿り着いたのは、裏通りの中でも寂れた倉庫。きょろきょろしていた人物は誰もいないことを確認してから中へ入っていった。
気配を隠しながらリアナは倉庫を一周する。天井の窓が一番見やすいだろう。
見当をつけて飛ぼうとし、背後に気配を感じて振り返った。声には出さず静かにと合図して手招く。
「どうして着いてきたんですか、ヴァリー!危ないでしょう」
「こっちの台詞だ。いきなりふらっといなくなったら驚くだろう。迷子になったらどうする」
「これでも毎日皇都上空を飛んでるんですから地理は覚えています!退いては……くれないですよね」
困った。とても個人的なことでヴァリアスを巻き込むわけにはいかない。しかし絶対に大人しくしてくれないのは性格上判っている。
これでも強いから自分の身くらいは守れるだろう。ここで逃すよりは叱責覚悟で巻き込むか。
迷いは一瞬。自分の身を安全第一に考えることを確認させてから、リアナは魔術で空へ飛んだ。曇ったガラスから内部の様子を覗き込む。勿論魔術で盗聴するのを忘れない。
「……束です。薬をください」
「中を確かめてからだ。気づかれずに持ってきただろうな?」
「はい。荷の一つに偽物を混ぜて検問に見せたら通してくれました」
「よく考えたな」
内部にいるのは十三人。内十人は身のこなしが違う。彼等は三人のくたびれた若者から棺桶くらいの箱を受け取っていた。
一人が中身を確認し、残りの人間に頷いた。三人の若者と話していた男が懐から小瓶を渡す。
「ご苦労だった。報酬だ」
若者が唾を飲み込んで薬を受けと……。
「そこまでだ!」
ガシャーン!
ぱらぱらとガラスの破片が男達に降りかかる。即座に抜刀した男達は、鞘で窓を割ったヴァリアスとその隣で苦笑いしているリアナを睨みつけた。
魔術で緩和しながら倉庫内へと侵入したヴァリアスとリアナが男達と対峙する。
「お前達何者だ?」
言うが早いか連携された動きで男達が襲いかかる。リアナはヴァリアスを下がらせてから剣を一振りした。耐性がなかったのか呻き声を上げて簡単に男達は倒れていく。簡単に言えば剣に雷を纏わせて感電させたのだ。
軽いショックを与えただけで殺してはいない。若者達はヴァリアスが手刀で気絶させ、残りは手近にあったロープでぐるぐる巻にした。
「全く、護衛対象は大人しくして下さい。怒られるのは僕なんですよ?」
「お前も言うようになったな」
「当然です。考える前に動くのは止めてください。それだから、影で脳筋族と言われるんですよ」
「待て!その噂は初めて聞いたぞ」
「今、初めて言いましたから。前から思っていましたが、ヴァリーはもう少し考えて行動することを学習してください。この前だってそれで振られたでしょう?」
「……何で知ってるんだ」
「貴方の傍にいれば判りますよ、それ位。何年一緒に居ると思ってますか」
分が悪い。これ以上暴露されない内にと、ヴァリアスは箱の一つを開ける。そこには何百もの液体が入った小瓶が詰められていた。間違いなく若者達が渡された物と同じだろう。
「麻薬、か?」
「麻薬とは匂いが違います。これは知らない味ですね」
少量の液体を手の中で燃やし、そして口に含んだリアナは知識の中に該当しないことを伝える。毒かもしれないのに躊躇いなく口を付けたリアナの行動にヴァリアスは呆れた。毒に対する耐性は二人ともついているので問題ないだろうが。
「持って帰って一度クレハさんに分析して貰った方がいいかと。彼等も警備隊ではなく城の牢屋にいれます」
「理由は?」
本来なら、犯罪者は警備隊の詰め所に連れて行くのが妥当だ。
「全員海の国トートスの軍人です」
男達を調べていたリアナがズボンをたくし上げる。そこには海色をした足輪が鈍く光っていた。