立場




 晴れて竜騎士となったリアナだが立場は少々、いやかなり複雑だった。
 まずは竜騎士でありながら第二皇子ヴァリアス専属の護衛だということ。竜騎士の個人に与えらえられる仕事は軍の中枢を担うだけあって多岐に亘り、とてもではないが第二皇子の護衛まで手が回らないのだ。
 次にあまりに若すぎること。
 そしてスタードラゴンの中でもトップレベルを誇るルークーフェルを相棒にしてしまったこと。
 まず一つ目と二つ目だが、第二皇子が元々竜騎士を束ねる隊長であったため竜騎士の称号を持ちながら実質は補佐として働くことになった。担当地区や率いる兵を持たない代わりに皇子の護衛や各竜騎士の補佐が主な仕事である。
 士官学校も出ていない、実務経験もないぽっと出の少年が突然補佐をするなんてと竜騎士の下で働く兵士達からやっかみが来ると思いきや、かなり熱烈に歓迎されていた。
 あまりの激務に仕事をサボタージュしたりボイコットする騎士も少なくなく、そんな彼等に仕事をさせる存在として今や人気は鰻登りである。更に竜騎士達は変人揃いで有名で、それを御せる気数少ない人物としても尊敬されている。

 そして最後だが、これはかなり紛糾したらしい。なんせ皇族の権威を揺るがしかねない事態なのだ。皇族に取り込むかそれとも抹殺するか議論は貴族達の間で揺れた。
 最終的には生まれの身分は低いが後ろ盾があのスフェンネル公爵であることと、皇帝や皇太子が諸手を上げて賛成したことが決め手となり、皇太子の二番目の令嬢の許嫁として将来的に入り婿、つまり皇族として名を連ねることで沈静化した。らしい。
 というのも、当の本人は人伝に聞いただけだからである。恰好がつかないとのことで名ばかりの爵位と領土が与えられた以外変わったことはなかった。

「皇太子殿下の二番目の息女といえば、リトルの五歳年上の方ですね。確か第四部隊の隊長だったと思いますが」

 冷めたお茶を啜りながらクートが丸眼鏡を押し上げた。いつも微笑みを浮かべ、学者然とした人物であるが彼も歴とした竜騎士である。
 愛妻家として有名で、穏やかな人柄から竜騎士の中でも1,2を争う常識人として名高い。書類を届けに来たところでお茶に誘われ、リアナは休憩も兼ねて一服していたのだった。

「第四部隊といえば、副隊長のカラルさん率いる実働隊じゃないですか。強いんですねぇ」

 一から十番隊までは実働隊で職業軍人の花形でもある。戦場でも先陣に立つせいか気性が荒いので有名だ。イメージとしては筋骨隆々な人が勢揃いである。

「その内果たし状がくるかもしれませんよ?姫は自分より弱い男とは結婚しないと常々豪語していますから。ああ、今のところ竜騎士でも手合わせすれば勝てるのは十人くらいでしょうね」

 十人と聞いてリアナは純粋に驚いた。竜騎士は基本官僚のような仕事ばかりだが、個人の戦闘能力は決して弱くない。どころか魔術の素養は勿論、何かしら武 芸に秀でているため下手な武術集団より遙かに強い。生物の頂点に立つドラゴンを相棒にしている時点でそれは明らかであるが。

「万一にも貴方が負けることはないでしょうが、気の済むまでやらせてあげてください」
「?クートさんは殿下が苦手ですか?」
「あはは。……会えば判りますよ。それよりお茶をもう一杯いかがですか?」
「貰います。今日も良い天気ですね」
「はい」

 どこかで爆発音と怒号が響いているが気にしない。官舎でそんなことは日常茶飯事なのでいちいち驚いていては身が持たないのだ。遠くでリトルの名が呼ばれている。この後騒ぎの後始末をさせられるのだろうと思えば、いかに温厚なリアナとて溜息が出る。
 せめてもの抵抗と注がれたお茶をゆっくり飲んだ。





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