リトルという少年
スフェンネル公爵領で見つけたリトルという少年はヴァリアスから見て何もかもが規格外な少年だった。
竜騎士を率いる隊長の護衛として最低限竜騎士と同じ力量を求められる。
とりあえず、魔術がどの程度使えるのか判らなかったので、王都に着くなり魔術師の集まる魔術塔へ連れて行った。
素質や属性を調べるためにリトルを預けたところ、宮廷魔術師の名を冠する三人にリトルをくれと泣き付かれた。何でも極めれば国一番の使い手になるだろうと言うのだ。拉致されそうになってたところを間一髪で助け出した。
次に教師陣と引き合わせた。リトルはヴァリアスより四つ年下で、学友として扱うには無理があるかもしれないだろうと思ったからだ。
完全に杞憂だった。各分野の教師を唸らせるような知識の持ち主で、研究所に是非くれと所長直々に嘆願書が届いた。勿論却下した。
最後に復帰していた竜騎士達に引き合わせた。彼等は優秀なのだがそれぞれ変人である。大いに人格に問題があろうと実力さえあれば問題ないという根っからの実力主義だった。
リトルは圧倒的な実力を持っていたためかはたまた素直な性格が幸いしてか、顔合わせの際には絶句していた(顔立ちはこの世の者とは思えないほど整っているので)がこちらの予想通りあっという間に馴染んでいた。
その後連れて行った厩舎で騎士達のドラゴンが例外なくリトルに群がるので凄いことになっていたが。
そして現在リトルは皇太子たるヴァリアスの兄、リュディアスの膝の上で寝ている。
兄と言えば、愛おしそうにリトルの頭を撫でていた。
色々間違ってないか?と思うが兄の子供は既に親離れしており寂しかったらしい。
単に顔合わせだけの筈だったが、すっかりリトルを気に入ったようであれこれかまっているうちにリトルが眠ってしまったのだ。
「いっそリトル君僕の息子にならないかな?いやそれよりも息子のお嫁さんにいいかもしれないな」
「兄上!? リトルは俺のものです。あげませんよ! 大体リトルは男です。嫁は他に当たってください」
虚をつかれたリュディアスはヴァリアスは知らないんだったなと思い返した。リュディアスも皇帝も公爵から直接リトルの事は聞いているのだ。つまり性別を偽っていることも知っている。初見でなぜこれ程可愛いのに女の子だと思わないのかむしろヴァリアスの感性が不思議だ。
「良いじゃないか、別に。綺麗な顔してるし女の子の格好をさせれば問題ないよ。でも寝顔は可愛いなぁ。そう思うだろう?」
我が兄ながら理解不能だとヴァリアスは諦めた。冗談なのか本気なのか柔和な面立ちからは判断がつかないからだ。
「……確かに可愛いとは思いますが!リトルは男です。全く、この程度で寝るとは。体力をつけてやらないといけないな」
「リトル君はまだ十一だよ?育ち盛りなんだから寝かせてあげなよ」
「甘やかしては軟弱な男になります。起きろリトル!帰るぞ」
耳元で叫ばれ、身じろぎしたリトルは目を開けた。
眠そうに目を擦る姿は愛らし…じゃなくて、腕を引っぱって自室へ戻る。
ヴァリアス専属の騎士としてリトルの部屋はヴァリアスのすぐ隣だ。部屋は一枚の扉で繋がっており、いつでも駆けつけられるようになっていたが、なぜかド
アはリトル側からしか開けられない。 これは兄の仕業だった。リトル専属の侍女に後は任せ、ヴァリアスはベッドに倒れ込む。
疲れる一日だった。