第一章 一話 開幕




 「あーあ、つまんないの。もう少し遊べると思ったのにな」

 ぽつりと少女が呟く前には、事切れた無数の死体が折り重なっていた。
 いや、死体とも言えない。ただの人の形をした炭である。

『お前はこの世界で比類無き力を持つ。神すらも越えるほどにな』
『お前がいる限りこっちは商売上がったりだ。もうちっと加減しろよな』

 純白の翼を持つ天使が哀れむように少女を見た。そして黒い蝙蝠の翼を持つ悪魔が
つまらなさそうに鼻を鳴らす。醒めた目つきで少女は二人に視線を合わせた。
 力でねじ伏せる事は容易い。実際少女の力を持てば神すらも凌駕する事は、
この世界に住む生き物にとって当たり前のことだったのだ。

『我が娘よ。何故人を殺す?』
『我が娘よ。何故人を生かす?』

 それぞれが主君たる神と魔王の伝言を少女に告げた。
 天と地の住人ですら感嘆の息を漏らす完璧な美の調和を持つ少女は、ただ
興味なさそうに一言。

「気まぐれ」

 少女は感情のままに生きていた。刃向かうものには死を。気が向けば生を。
 そもそも、戦場でそれ以上のものが必要なのだろうか?とすら思う。たった
一人で戦局を傾けるほどの力を有する少女にとって、敵とは取るに足らないもの
であり味方は次の日には敵となるのだ。
 その強大なる力を前にして人は敬い恐怖する。
 生にすら執着していない少女は、他者から死を貰うには強すぎたのだ。
 そしてこの世界には最早少女に関わろうとする奇特な生き物は一人もいない。
 神と魔王はそのことがひどく気がかりだったのだ。
 彼等にとっては愛する娘。しかし彼等以外に少女を愛する、否、少女を見ようとするものは
誰一人としてこの世界にいない。そして少女も当たり前のように受け入れている現実があまりに悲しい。

 だから彼等は決心した。愛娘を手放すことを。他の世界の神々に接触し、とある神が受け入れを引き受けてくれたのだ。
 そして少女は諾々と両親に従った。

 今一度やり直すために。
 両親の言う愛を知るために。





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